とある金曜の夜のことです。
この日は、一見の若い男性客8名、かつ女性客ゼロという、
三洞として珍しい状態でしたが、片付けも終えて一息ついていたところに、
年配の一見のお客様がご来店。
「福岡から来たのだが、大宮には20年以上前に単身赴任していたことがある。
変貌に驚いた。その頃はゴチャゴチャしてて、汚い店ばかりだった」 とのこと。
私はずっと地元民ですからね、「そう、ドブでしたから」 と言うと、
「そうだ! 確かにドブがむき出しだった!」
と懐かしんでいらっしゃいました。
少々の会話で気分がほぐれたのか、おじさん、真剣な顔で、こんなことを言います。
「あのさ、お客さん、誰もいないから言うけどさ……このお店、入りにくいぞ」
ありがたいことです。教えてくれたんですね。
丁寧にお礼を言ってから、笑って答えました。
「でも、入りにくくても仕方ないんですよ。入りにくい店にしてくれって、
設計士に頼んだんですから」
おじさん、全然納得行かない様子で、説明を求めます。
長くなるので、要点のみ書きます。
●立ち食いそばのように、通りすがりの人をターゲットにしていない。
そんなことをしていたら、偶然にしか頼れず、経営困難は必至。
●入りやすい店にしたとしても、もっと入りやすくて安い店は
いくらでもある。それでは負けは必至。
おじさん、「なるほどね~。そういうものか」 と言いながらも、
「でも、入りにくかったら、お客さんが入ってこないだろ?」
とおっしゃいます。
笑ってこう答えました。
「そうは言っても、お客さん、入って下さったじゃないですか」
お客様、「そりゃそうだ!」 と大笑です。
「福岡からいらっしゃって、こんな入りにくい店に、どうして入って下さったのですか?」
と聞いたら、
「いや、何となく気になって、入ってみようかな~って思ってさ。静かに飲めそうだし」
そう、そういう人をお客様として想定しているのです。
女性の一人客が多いのも、そんなお店だからなのでしょう。
おじさん、「また機会があったら来るよ」 とホテルに帰って行きました。